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大阪高等裁判所 昭和63年(う)425号 判決

国籍

韓国(慶尚南道宣寧郡富林面新反里)

住居

大阪府東大阪市立花町一番三五号

会社役員

太田康博こと

朴永鐘

一九三〇年九月九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和六三年三月七日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 和田博 出席

主文

原判決を被棄する。

被告人を懲役一年二月及び罰金一億円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、辞任前の弁護人滝口克忠作成の控訴趣意書、弁護人表久守作成の控訴趣意補充書各記載のとおりであり、これに対する答弁は大阪高等検察庁検察官和田博作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、原判決の量刑不当を主張し、原判決の量刑は、懲役刑について執行猶予を付さず、罰金刑について高額に過ぎる点において重きに失し不当である、というのである。

所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するのに、本件は、被告人が、昭和五七年度ないし五九年度の三年度分の所得税合計三億八、一八二万三、七〇〇円をほ脱した所得税法違反の事犯であるが、ほ脱税額が多額であるばかりか、ほ脱率も平均九九・八パーセントと極めて高く、自己の経営する鉄線加工業の資金備蓄と事業の拡大に充てるため本件犯行に及んだ動機に格別斟酌すべきものがあるとはいい難く、在日本朝鮮人大阪府商工会東大阪北商工会が、帳簿類の調査をすることなく同会に申し出た利益を基礎に納税手続を代行してくれるうえ、右商工会を通じた申告については事実上税務調査もなきに等しい実情にあったことから、多額の利益を得ていることを知悉しながら右商工会を通じて極端な過少申告をしたもので、犯情は悪質であり、申告納税制度を根本から破壊することにもなりかねず、誠実な納税者の納税意欲を失わしめる虞れが大であることなどに徴すると、被告人の刑責は重く、被告人を懲役一年二月の実刑及び罰金一億円に処した原判決の量刑もあながち首肯し得ないわけではない。

しかしながら、被告人の利益計算の基礎となる帳簿類は正確に記載されており、帳簿の改ざん、架空経費の計上や売上げ除外等の特段の所得秘匿行為に出ておらず、本件捜査に対して自己の非を誠実に認めてこれに協力していることが窺われ、犯行の態様において反社会的、反道徳的な行為・手段を伴なったものであるとは認められないこと、被告人が本件犯行に及んだ責任の一半は不適切・不相当な対応や指導をしてきた前示商工会にあり、責任のすべてを被告人に問うことはいささか酷であると思料されること、本件後被告人は個人経営を止めて法人化するとともに、税理士に申告手続を含む経理事務を委任し、前示の商工会から脱会して再犯防止に努めていること、本件で、本税、重加算税、延滞税の合計五億五、二〇三万六、六〇〇円を支払っていること、被告人は昭和一〇年ころ来日以来、文字通り刻苦勉励し、親族一同の経済的・精神的な支柱としてその世話に努めているだけでなく、同業者や従業員に対する思いやりも深く、それらの者から厚い信頼を寄せられており、社会福祉事業等への寄付等で地方公共団体からの感謝状を受けるなど、本件を除いては、真面目、誠実な社会生活を送っていること、被告人には、これまでさしたる前科がないこと、反省状況、健康状態、家庭事情など被告人に有利に斟酌すべき情状を総合考慮すると、原判決が、被告人を罰金一億円に処した点は正当としてこれを是認すべきであるが、この際、被告人を実刑に処するよりは、今一度、被告人に対し社会内での更生の機会を与えることが具体的に妥当な措置であると認められ、原判決は、懲役刑につき刑の執行を猶予しなかった点で重きに過ぎるといわなければならない。論旨は、右の限度で理由がある。

よって、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に則り、当審において直ちに判決することとし、原判決が認定した事実に原判決挙示の各法条(さらに、執行猶予につき刑法二五条一項)を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 重富純和 裁判官 川上美明 裁判官 生田暉雄)

○控訴趣意書

所得税法違反 被告人 太田康博こと朴永鐘

右被告人に対する頭書被告事件につき、昭和六三年三月七日大阪地方裁判所第一二刑事部が言い渡した判決に対し、弁護人から申し立てた控訴の理由は左記のとおりである。

昭和六三年五月一八日

右弁護人 滝口克忠

大阪高等裁判所第二刑事部 殿

原判決は検察官の求刑懲役二年及び罰金一億二千万円に対し、「被告人を懲役一年二月及び罰金一億円に処する。右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」旨の判決を言い渡したものであるが、懲役刑に執行猶予を付さず実刑に処し、また高額な罰金刑である右刑の量定は著しく重きに失し不当であるから到底破棄を免れないと思料する。その理由は次のとおりである。

第一 原判決は本件逋脱税額が高額でその逋脱率も高率であること、且つ脱税が国家の財政的基盤を危始ならしめる旨説示し、被告人を実刑に処したが、右量刑理由は、余りにも形式的、短絡的で本件具体的諸情状及び同種事案の量刑状況を考慮していず、刑事裁判の本質を顧みないものである。

即ち、量刑の公平、妥当性は個々の事案の全情状を参酌し、且つ、同様事案の量刑状況との均衡をも考慮し、これらを総合して判断すべきなのである。

一 例えば、殺人罪事案は人命の尊厳を奪うという結果の重大性からその殆どが実刑を以て量刑されているが、その全てが実刑になるわけではなく、具体的な情状如何によっては執行猶予を付されるばかりか起訴猶予処分にすらなる事例もある。

本件のような逋脱事案についても右のように当然諸々の具体的情状及び同種事案の量刑状況を総合勘案して量刑をされるべきである。

二 確かに、本件逋脱額及び逋脱率が高いことは否めないも、本件と同様の逋脱額の事案は勿論、本件をはるかに超えた極めて高額な逋脱事案についても執行猶予を付されるか、なかには懲役刑自体選択されていない事例もある。

例えば、東郷民安に係る所得税法違反事件では、二六億三六五〇万円もの脱税額であるのにこの量刑に懲役二年六月、執行猶予三年及び罰金四億円で、ネズミ講で有名な内村健一に係る所得税法違反事件では、二三億一一四八万円の脱税額であるのに懲役三年、執行猶予三年及び罰金七億円の量刑がなされており、いずれも執行猶予が付されている。また、本件と同程度の規模の佐藤一に係る所得税法違反事件では三期で五億五八三万五一一〇円の脱税額のところ懲役一年一〇月、執行猶予三年及び罰金一億五千万円の量刑がなされ、浅村成久に係る所得税法違反事件では、三期で三億二六九二万五三〇〇円の脱税額であるところ懲役一年、執行猶予二年及び罰金四五〇〇万円の量刑がなされ、これらはいずれも執行猶予が付されている。

さらに生花で有名な勅使河原 一に係る所得税法違反事件では、二期で三億四四六万五二〇〇円の脱税額であるところ、検察官の求刑懲役一年及び罰金一億円に対し、一審、二審とも罰金一億円の量刑をもって処し、懲役刑は何ら選択していない。

以上のように、本件と同程度あるいはこれをはるかに超えた高額の逋脱事犯に対しても裁判所においては執行猶予をもって対処し、時には懲役刑の選択すらしていない事案があり、この点からしても原判決の量刑は余りにも過酷にして処罰の公平さに欠き法の下の平等に反していることは明らかである。

三 過去の脱税事件の実刑事案を検討すると、逋脱額、逋脱率がその量刑事情の要素になっていることは否めないも、基本的には犯行における計画性、積極性、主導性、逋脱の不正手段の悪質性が量刑要素になっているとともに、その事案の反社会性、反道徳性の強いことが最大限考慮されている外、累犯前科の存在及び過去同種前科があるか、あるいは、調査を受け修正申告をしているかなどが、実刑事案の量刑上の重要な要素となっている。この観点からすると、被告人には本件についての計画性、積極性、主導性はなく、その犯意も概括的故意に止まり、被告人の犯行手段は、単純ないわゆるつまみ申告で、これが発覚しても言い逃れできる余地のあるような工作も何ら行っていない。また被告人の営業内容も、伸線加工または、焼鈍加工といった他が嫌がる仕事のきつい製造事業で、地道にこつこつと所得を上げていた職種で、他のトルコ業者等反社会性が強く、あるいは投機的投資による容易に得た所得等ではなく、且つ全く個人的利益及び消費を追及した事案と根本的に異なるものである。

四 加うるに、本件は大阪国税局の強制調査、いわゆる査察によって検挙されたものであるが、本件が所轄税務署等による一般調査であれば本件は更正処分だけに止り何ら刑事処分まで受けることはなかったものである。

世上、大会社または著名人等における巨額の脱税事案が発覚しているが、これに対して一般調査という手続がなされ、結局は更正処分、修正申告で終わり何ら刑事処分を問われずに済んでいる。最近においても、大蔵省出身の政治家相沢英之による株式売買による売買益約二億円を申告しなかった多額の脱税事件があったが、これも一般調査で、修正申告のみで済み、何ら刑事処分を受けずに終わっている。本趣意書作成中も大手建設会社のフジタ工業による逋脱所得一一億円を含む二一億円もの申告もれ脱税事件に対し、国税局が、ただ更正決定をしていただけである旨新聞報道がなされているところである。

このように脱税に対する処分が強制調査と一般調査とでは天国と地獄の差があり、その最終処分が実刑になるということは余りにも不公平で到底納得することが出来ない。

五 租税逋脱犯が一種の行政犯であり、その保護法益は国の財産権と解されるところ、その違反に対しては国家に財政上の損失を生じないようにすればそれで必要且つ十分である。本件において、後記のとおり後記の外一億七千万円余りもの多額の重加算税等を支払っている上、原判決では罰金一億円も言い渡されているので、国家の財政もそれにより十分満たされている。もとより、脱税事犯者に対する一般予防の観点から、厳罰に処す必要もあることを認めるにやぶさかではないが、金員面を動機とする犯罪に対しては金員面で厳罰に処せれば足り、それにより違反者に対しては必要にして十分な制裁がなされたと言うべきである。本件においても同様で且つ刑の教育刑又は広報刑の観点からしても被告人に対し実刑をもって対処すべきではない。

第二 次に、被告人に対し、右第一のとおりであるのに、特に実刑に処さなければならないような悪しき情状の有無があるのか検討すると、後記のとおり、むしろ執行猶予に付すべき数々の良き情状がある。

一 被告人にはこれまで傷害、外国人登録法違反の前科二犯があるが、いずれも相当年数を経た上、罰金刑に止まる軽微な事案である。

そして、もちろん、被告人には本件同種前科がないばかりか、税務当局による一般及び強制調査、あるいは何らかの指導すら受けたこともないものである。

本件同種事案中には同種前科が有ったり、あるいは調査を受けたことがあったのに再犯に及んだため実刑に処せられた事案もあるが、本件ではそのようなことは一切無いなのである。

二 被告人は、一貫して正業に従事してきた真面目な一般市民で、これまで早朝から夜遅くまで懸命に働き続けてきた。即ち、被告人は尋常小学校を卒業後、人種差別に屈することなく工員、運転手として働いて、資金を貯め、運送店を経営するようになったが、病弱の兄のためこの店を譲り、自らは資金調達に苦労した上、関西熱処理を経営するようになったものである、そして、いずれの時も自ら率先して長時間働き続け地道に所得を得ていた。この点、同じ脱税事件におけるトルコ、パチンコ業者等の悪質な手段、方法による反社会性、反道徳性の強いあるいは投機的事業で容易に所得を得、多額の脱税をした事犯者とは根本的に量刑の前提事実が異なるというべきである。

三 本件犯行の手口はいわゆるつまみ申告で、犯行の方法としては極めて単純、拙劣で、計画性もなく、悪質巧妙というような要素は何らなく、また犯行について積極的、主導的な所為も一切なかったものである。

被告人は従業員の橋長幸子に帳簿、伝票等の記帳をさせていたものであるが、その記帳内容は国税当局も認めるように事実に即し、正確であり、何ら改竄したり、あるいは架空経費の計上や売上除外をするようなこともしていない。税務当局が調査し、帳簿類の閲覧を求めれば、ただちに犯行が発覚するようなことしかしていなかったものである。

他の同種事案に見受けられるように、二重、三重帳簿あるいは虚偽書類の作成、他ととの罪証湮滅的な工作、行為も何ら行っていないものである。そして犯行に際しても、後記商工会に対し、あれこれ指示、相談するようなこともなかった。この点も同種事案に比し、情状的には格段に参酌すべきことである。

四 本件犯行の経緯、動機について同情すべき余地がある。

(一) 被告人は、少年時よりその家庭が貧困なため、小学校も満足に通えず、近隣の農作業を手伝い、米、野菜などを得、これによって家計を助けたり、また在日韓国人である為、いろいろ差別を受けるなどして苦労し、「金」こそその拠りどころと思うようになった。そして、関西熱処理を経営するようになって、第一次オイルショック時には仕事もなく苦しかったが、その従業員には働かなくとも給料を支払ったりしていたところ、将来の不況に備え、この関西熱処理の内部留保を多くし、従業員らが困らないようにと考るに及んだ。その上、現工場が住宅地にあり、公害問題が発生することから工場を移転するための敷地等購入資金を必要としていた。こういったことが本件の経緯、動機となるわけであるが、他の同種事案者の多くにおいて、脱税動機が贅沢三昧をする等して個人的欲望のみを追及することにあるのに比し、格段の差がある。

ちなみに、被告人はゴルフ等の遊びは全くせず、趣味と言えば野菜作りであり、また家計費も本件時、月三〇万ないし三五万を家に入れるだけで、その中から十万余りの保険掛金を引いた金員で被告人夫婦や長男夫婦、孫らの食費等を賄っていたように、むしろ、質素な生活を続けていたものである。

(二) 本件経緯については、税務当局及び在日朝鮮人大阪府商工会東大阪北商工会にも落度がある。

即ち、被告人の犯行方法はいわゆるつまみ申告であるが、右商工会に申告手続を依頼した当初、売上など記載した帳面類を右商工会に持参しているにもかかわらず、右商工会の担当者において、被告人に対しその組織に力があることを誇示し、税務当局も右商工会を通じての申告には異議を出さないごとき言を弄し、教育のない無知な被告人をしてその旨誤信させていたものである。そして、税務当局も右商工会を通じての申告について、本件検挙時まで何ら被告人方を調査、指導することもなく、放置、看過していたものである。

この点に関し、昭和五五、五六年頃、税務当局も右商工会を通じ、被告人に帳簿類等の提出方を求め、被告人も素直にこれに応じていたにもかかわらず、商工会及び税務当局は何らの是正措置も講じていなかった事実があり、これらのことが本件誘因となっているといっても過言ではない。

ちなみに近時、京都府において全日本同和会関係者の指南による大掛りにして組織的な脱税事件が多数検挙されているが、これら脱税指南人が暗躍したのは、税務当局が右同和団体を通じての脱税申告を看過するばかりか、むしろ黙認するような態度であったことが犯行の一因である旨これら事案の判決において指摘され、新聞等で報道されている。まさしく本件もこのように右同和団体と同じく、一種の圧力団体と目されている商工会を通じての納税申告についてその内容を調査しないばかりか、黙認していた税務当局側の不公平な態度も本件誘因の一つで、その非があると言うべきである。

被告人は二〇年近く関西熱処理を経営しており、本件査察までに一回でも調査、指導が有ればその人柄からして直ちにその非を是正し、正しい納税を行っていたことは間違いなく、これを怠り放置した税務当局において多大の落度が有ったことは明らかである。

五 被告人は、本件を深く反省し、今後同様事案の再犯に及ばない旨誓約している上、内田治夫税理士に正しい申告手続等を依頼し、現にこれを実行しているところである。

被告人はもともと税務知識に疎く、本件で脱税している認識はあったものの正規の税額の概算すら知らず、右商工会の指導に従って本件に及んでいたものの、本件検挙によって自己の非を深く反省し、国税当局あるいは検察庁においてもその犯行を認め、また公判においても素直に犯行を認め、何ら否認、弁解するようなこともしていないところである。

そして、査察後直ちに右商工会とも縁を切り、右内田税理士に申告手続を含む経理事務を依頼したり、関西熱処理の法人化手続も済ませ、本件後は正しい申告を実行しているもので、昨年暮には税務当局の調査があるも、結局申告を是認されているところである。このように被告人はその非のあるところは全て是正し、正しい納税に努めている。

六 被告人はこれまでに十分な制裁を受けている上、著しく健康状態を害している。

即ち、被告人は本件で検挙さたことについて、大々的に新聞等で報道され、精神的打撃を受けた上、本税、重加算税、延滞税などで合計五億五二〇三万六六〇〇円も既に納付している。この内、重加算税、延滞税は一億七〇二一万二九〇〇円にもなり、この分既に経済的な制裁も十分受けている。この上、また一億円程度の多額の罰金刑を納付せざるを得ないことが予測され、もはや諸制裁を十分受けたと言っても過言ではない。加うるに、本件実刑判決が新聞等で報道され更に諸打撃をこうむった。

また被告人は、昭和五四年九月に大阪府立成人病センターに入院し、その際、糖尿病と排尿障害がある旨診断され、以後食事療法を続けているが、昭和五四、五五年には自宅風呂場で心臓発作を起こして倒れ、以後その発作が続き、常時、救心を服用し、現在なお京都府立医科大学付属病院には前立腺肥大症で、石切生喜病院には狭心症で通院を続け、精密検査のため入院を必要とされる程健康状態が悪化している。このような被告人に対し、更に実刑を処す程の悪しき情状は何らない。

七 被告人は関西熱処理株式会社の経営上、不可欠の存在である。

即ち、被告人の業種は、仕入、販売共に長期間に培われた信用で動いており、被告人の役割をその子供や弟らが代行することができないものである。仮に被告人が服役する事態になると、右関西熱処理はたちまちにして倒産し、その家族ばかりか従業員も路頭に迷うことが必至である。現に本件実刑判決が報道されただけで仕入先、得意先に動揺が生じており、売上も徐々に落ちている。

罪のない従業員らのためにも本件については寛大な量刑がなされるべきである。

第三 結語

以上のとおり、原判決は本件の逋脱額、逋脱率のみにとらわれ、具体的諸情状を考慮せず、また同種事犯の量刑状況から逸脱した余りにも形式的、短絡的にして過酷な量刑である。素直な言葉で言えば、何も刑務所に入れなければいけないほどの事案ではないということに尽きる。また、罰金一億円も通常同種事案では、求刑の二割乃至三割引きの罰金刑が相場であるに比し、高きに失すると思料する。弁護人としては前記諸情状がある上、被告人の稀にみるほどの質素、正直、仕事熱心な人柄を考慮していただき、懲役刑については是非とも執行猶予を付されることを願うのみである。

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